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君が確かに寝言で言ったのを覚えてる 「なんで私に余計な言葉を覚えさせるの。」 化粧をすっかり落として子供のような顔に戻った君の寝顔にはうっすらと涙が浮かんでいた。夢の中でどんな事が起きてるか想像する術も無いのだけど、もしもその言葉が向けられた相手が僕だったとするなら、と色々と真夜中に考えを廻らせてみた。 今、僕の横でベッドの上で薄いシーツに包まっている君のその涙を手で拭き取りながら、今まで君と僕との間で交わされた言葉を思い返してみた。全てを思い出せるわけじゃないけれど、君と初めて出会ったとき、君がつまらなそうな顔をしてても僕が話しかけた事、セックスの最中に君に語りかけた言葉、出来る限りの言葉を思い返してみた。 いつの頃からか無口だった君がちょっとしたきっかけさえあれば、自分から色々と話をしだしたのを思い出した。そういうときは大抵笑顔で、僕が聞きもしないような事を延々と話してるときすらあった。ちょうどその頃か、今日と同じようにベッドの上で二人で天井を見上げながら君は僕に一言ポツリと言った。 「この関係っていつまで続くんだろうね。」 僕は半分くらい眠りかけてたから、言葉は覚えていても、君がどういう意味でそれを言ったのかすぐさま思いつかず、適当な返事をしてそのまま寝てしまったのを覚えている。そしてきっと君はその後こう思ったんだろう。「なんで私に余計な言葉を覚えさせるの。」って。 僕は君の事が好きで好きで堪らない。何をどう表現していいのか分からないぐらい出会った時から君の事が好きだった。こうして同じベッドで同じ夜を過ごす関係になっても、その気持ちは変わってない。 そして僕のこの気持ちを出来るだけ伝える為に、君と当たり前のようにセックス出来るようになっても、更に君とより深いところで繋がり続ける為に、僕が君を口説き続ける為に使ったのは確かに「言葉」だ。というより僕には言葉しかなかった。 ヒールを脱いでしまえばそれほど君と変わらない身長でも、やっぱり他の男と比べるとなると圧倒的に低い身長。かといって体のバランスが良いわけでもないし、顔だって別に良いわけじゃない。一般に言われる「モテる」と言う要素からは遥かに遠い存在の男。 その男の唯一の武器となりうるものは言葉だった。そして君への愛情。その愛情を使い古されたものじゃなく、常に今の、今目の前に居る君の表情、仕草を見ながら僕は言葉に変えて出し続けた。そしてその言葉が良く君の体に染み渡るように君を出来るだけ笑わせて、セックスの最中も君を抱ける喜びだけに浸らず、君の感情を汲み取れるような言葉をかけて。 きっとその言葉の中には君を傷つける言葉もあっただろうし、もしかするとすっかり癒えた傷だったはずの君の過去の傷を抉り出して、また生傷にしてしまった事もあったと思う。だけど僕にとってはその傷を僕の前に曝け出してくれた事は嬉しいことだったし、僕の言葉で君の心を抉れた事も嬉しいことだった。 何の事は無い、僕たちはこうしてセックスしてるのだから、体と同じように傷も重ね合わせてしまえばいいと思ってるから。僕の傷と君の傷を重ね合わせて、きっと傷口は同じ深さで同じ広がりだろうから。そして余りセックスの上手じゃない僕の動きと同じように少しずつすり合わせていれば、君の傷と僕の傷は同化して忘れた頃にはすっかり癒着してしまう。 いくつかの傷は癒着し終わったと思う。僕やそして君の言葉が強力な接着剤となって、その傷ごと削ぎ落としてしまわなければ2度と離れないぐらいに。だけどまだ君にはいくつかの傷が残っているように見える。それを僕に曝け出すべきかどうかと、きっとあの夜と、それを夢の中で思い出して今夜は君が不安になっていたんだと思う。 そんな不安を与えるぐらいなら、最初から言葉など持たずにいれば良かったのかなと考えてしまう。だけどそれ以上に思ったのがその不安ごと君を買い取ってしまえば、何も問題は無くなるんじゃないかと。明日の朝君が目を覚ましたらそれを言葉にして伝えようと思う。 |