イカロスの翼



 天上的な美しさに何故人は憧れるのだろう。きっと自分に無いその美しさに魅かれ、自分の心の醜さを浄化してくれるのではないかと、僅かばかりの希望を抱え。

 まるでイカロスの翼。

 見上げる太陽に飽き足らず、そこを目指す姿は何処までも美しい。願わくば自分もその世界へとも思ってしまう。

 イカロスの翼は溶けてしまったけど、あの人の持つ翼なら、私が一緒なら太陽に手が届くんじゃないだろうかと。

 これじゃ心中が美しいのと同じ理論だ。


 昔嫁が死にたいと言っていた時期があった。

 それは毎晩のように同じベッドの上でそう呟きながら、涙を流し続けていた。泣きつかれて眠るまで。なんの説得力の持たない言葉を投げかける事しか出来ない男の傍で。

 彼女もまた天上的な美しさを追い求めている人だった。追い求めすぎて毎晩死にたいと思うまで魂を開放しながら生きてきた女だった。

 一緒に死んでもいいかと毎晩思った。その美しい魂と一緒に死ねるのなら最高の幸せだろうと。

 しかしそうしたところで私の汚れた魂が浄化されるわけでも無く、きっと最後に残るのは何の意思も持たない薄汚れた肉の塊。


 美しいものの傍に寄ると言う事は、その他の醜い部分も全て見ると言う事。浄化されるどころかかえってその美しさを見続ける為に、自分の魂を何処までも汚していく覚悟のを上で。


 他のものに触れる事無く、真の美しさに触れることだけを神は許さない。

 太陽を見上げ憧れる事は誰にだって許されることなのだけど。





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