キス



 セックスに至らない、セックスに至る事が出来ないキス。セックスに至る事が間違い無く可能だとしてもセックスに至らない事を望んで、その時心の中に持っているありったけの刹那だけを相手の唇に流し込むキス。

 単なる皮膚と皮膚との重なりで互いに伝え合う情報は言葉で伝え合うそれを遥かに凌ぎ、まさしく刹那という言葉が示すとおりの、怠惰な時間の流れと垂直に立つ永遠の瞬間をそこに紡ぎ出す。

 何処までも弛緩していく唇間にほんの少しだけ差し入れる舌先は、この世にあるどんな物より甘美な感覚を伝え、胃袋を含む内臓全てにその甘さを染み渡らせる。おそらく人が感受できる最高の甘味を。

 目頭と口の中に甘さを残し、互いの皮膚は名残惜しそうに離れる事を決意する。そして互いの唇が離れた瞬間からまた日常と言う名の緩やかな時が刻みの音を立てだす。平凡な、そして退屈な日々を愛する日がまた始まる。





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