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白いクリーム 貴方の部屋へ向かう途中の商店街で、こんな深夜にもかかわらずケーキ屋が開いていたので私は立ち寄ることにした。私の方から会いたいと言った手前、手ぶらで押しかけるのも気まずかったので、適当にショートケーキを見繕い持って行こうと思ったのだ。 ケーキを詰めてもらい店を出ると、小雨が降り出してきた。さっきタクシーを降りたときはそんな気配は無かったのだけど、ケーキを選ぶのについ夢中になっている間に雨は降り出したようだった。 あいにく傘を持ち合わせていなかった私は、ケーキの箱がなるべく濡れないように小脇に抱え、早足で貴方のアパートへ向かった。いくら小雨とは言え貴方のアパートへ着くまでの間に私の服はすっかり濡れてしまっていた。 アパートへ着くと、貴方は玄関先で待っていてくれた。しかし私の顔を見るなり、来るのが遅いと言い出し、外で待っている間に雨に濡れてしまったと、傘も差さずに待っていた自分の事をまるで私が悪いかのように言っていた。 来るのが遅いと思えば携帯を鳴らせばいいし、何も外で待っていなくても良かったのにと、言い返そうかとも思ったのだけど、言い出してしまえばお互い引っ込む事を知らないので、くだらないケンカは止めようと、言いかけた言葉を飲み込み大人しくしていた。 部屋へ入るとガスレンジの上のやかんが音を立てていた。貴方は無言のままガスを止め、セットしてあったコーヒーメーカーにお湯を注ぎ始めた。私はそこら辺に落ちていたバスタオルを手に取り濡れてしまった髪の毛を拭いていた。 最後のお湯を入れ終わると貴方は私からバスタオルをもぎ取り、まだ無言のまま頭を拭き始めた。砂嵐になっているテレビのチャンネルを換え、見たことも無いような洋画が映ったところで手を止めた。 コーヒーがすっかり落ち、部屋中にコーヒーの香りが充満していた。貴方はバスタオルを首に巻いたまま出来上がったコーヒーをカップに注ぎに行った。コーヒーを注ぐ貴方の背中に向かってケーキを買って来た事を告げ、少しだけ濡れてしまった箱を中身が壊れないようにそっと開けた。 貴方は二つのカップをテーブルに置きそこへ座り込むと、少し大きめのカップに入ったコーヒーを私の方にずらしてくれた。貴方は無言のままテレビに映った洋画を眺め、私も無言のまま貴方の横顔を眺めていた。さっき責められた事はやっぱりくだらない事だったのか、私は責められた事をすっかり忘れ、貴方の横顔を見て流れる時間が心地よくなっていた。 元々真剣に見ていなかった洋画に見飽きたのか、貴方は急にケーキを品定めし始め、イチゴショートに手をつけた。手に持ったまま包装フィルムを剥ぎ取り、そのままケーキに齧り付いた。貴方はおなかが空いていたのか、あっという間に一つ目のケーキを食べてしまった。 「おいしい?」 そう私が聞くと貴方は只頷いて、二つ目のケーキを食べようとしていた。私は貴方がケーキを食べるのをじっと見つめ、いつもは気にすることの無い貴方の口の動きを気にしていた。今まで全く感じなかったのだけど、今夜は妙に貴方のケーキを食べる口の動きが淫靡に見えていた。 二つ目のケーキを食べている途中に、貴方の口の周りに付いているクリームが邪魔なように思えた。そう思うと私は貴方の手首を掴んで手を口から離し、ケーキを食べるのを止めた。不思議そうに見返す貴方の目を見つめながら、私はテーブルに身を乗り出し、顔を近づけ邪魔になっているクリームを舐め始めた。 顔を横にして貴方の唇に平行に、三回と少し舌を動かした。クリームの下にある伸びかけた髭のざらついた感触が舌に気持ちよかった。綺麗にクリームを舐め終えるとまたテーブルから身を引き、顔に肘を付いて貴方の顔を見つめなおした。 少し顔を赤らめ、またケーキを食べ始める貴方が可愛く思えた。 |