|
値踏み 私が物心付いた時には、私は私が女だと言う事を自覚していて、いつの頃からかその女という生き物であると言うだけで商品としての価値がある事に気が付いていた。そして最近になってからは、その女としての商品価値がいったいどれだけあるのか、漠然と知りたいと思うようになってきていて、昨日の夜ついに夢を見てしまった。 何も見えないまま私は、左手を引かれやや引かれる様な感じで歩かされていた。衣服は何も身に着けておらず当然素足で歩かされていた。足元から来る感触は柔らかく、どうやら絨毯を敷いた廊下を歩かされているようだった。これといって肌寒い訳ではなく、特別なんの匂いもしない。何処のどういう廊下を歩かされているかはさっぱり分からなかった。分かるのは絨毯の感触と、握られた手が少し汗ばんでいて、どうやら男の人の手であることぐらいだった。 引かれていた手の感覚が弱まり、次の瞬間両肩を掴まれ歩くのを止めさせられた。そのまま体の向きを変えるように肩に力が入り、私はその力の方向へ素直に体を捻った。肩を急に掴まれた時私は少し動揺したが、先程から廊下を歩かされている間も不思議と何も不安に思ってはいなかった。まるで私は、引かれている手の先に私の確かめたかった事が待ち構えているのを知っていて、そこへ行くのが当たり前かのようだった。 立ち止まってすぐにドアをノックする音が聞こえた。ドアノブを回す音がし、体に部屋からの風が降りかかった。思ったより私の体が冷えていたのか、体に当たる風は生温く感じられた。そしてその生温い風に乗って私の鼻についたのはコーヒーとタバコの匂いだった。私は又手を引かれ部屋の中へと導かれた。 部屋の中はやはり廊下よりは気温が高く、足元から体に暖かさが戻っていくのが分かった。それと部屋の中に敷かれている絨毯が廊下のそれよりも毛足が長く、足の裏が半分ぐらい埋まっているせいもあっただろう。私は部屋に数歩入った所で手を離され、そのままその場に立っていた。背後ではドアに鍵をかける音がした。 咳払いをする音、足を組み替えたのであろうか椅子の軋む音、そしてその奥ではカーテンが開けられたのか閉められたのか、そんな音がした。どうやらこの部屋には少なくても3人以上の人間が居るらしい。しかし誰一人として声を出す事は無く、どうやら皆私の体を只眺めているようだった。私はすでに私の品定めが始まっているのを感じ、私にどんな価値が付くのかを想像し始めた。部屋に入ってからどれだけの時間が経ったか分からないが、体の冷えはすっかり取れ、逆に私の品定めが始まった事によって、私は妙な期待感からか体が熱くなっていくのが分かった。 椅子の軋む音がし、一人の人間が立ち上がったようだった。そして私の方に近づいて来てるのが絨毯と足が擦れる微かな音で分かった。どれだけ私に近づいてきたのだろう。しかし確かに視線が近づいて来てるのが分かった。その視線は私の体をくまなく見渡し静かに席に戻っていった。 その人間が席に戻ると、周りに居た数名の人間がその席に寄っていくのが分かった。そしてそこにテーブルがあるのであろうか、紙の上をペンが走る音が聞こえた。私の値踏みが始まったのであろうか。ペンの音は止まっては動き止まっては動き、その数名の間で暫く私の値踏みが行なわれているようだった。 またカーテンが動く音がした。そしてその時には先程まで聞こえていたペンの音は全くしていなかった。どうやら私の値段が決まったようだ。いったい私にはいくらの値が付いたのであろうか。そんな事を思っている時に私は体に柔らかいガウンのような物を着せられ、先程とは違う手の感触の者によって、廊下へと導かれていた。 どうやらこの手を持つものが私を購入したようであった。廊下を歩きながら私はどうしても私にいくらの値が付き、そしてどんな人間が私を購入したのか知りたくなり、初めて声を出し、この目隠しを取って良いかどうかその人に尋ねた。するとその人は足を止め、私の頭の後ろに手を廻し目隠しを静かに取ってくれた。 私はゆっくりと目を開け、暫くの間入れていなかった光をゆっくりと目の中へ入れていった。そしてその目に映る人を脳の中でゆっくり認識し始めた。 父だった。 父は私に一体いくらの値をつけてくれたのであろうか。そんな事を思いながらまどろみの中の絵空事は朝を迎えていた。 |