|
距離 人は永遠に同じ時間を共有する事は出来ない。 例えば100m先の人が手を振った瞬間を自分が認識するまでには、100mの距離を光が進んでくるほんの僅かな時間だけど、相手と自分とでは時間の誤差が生じてしまう。 100mなら全く支障の無い距離でも、それが1km、1万m、1光年となってしまえば、その差は歴然。1光年離れた人が手を振ったのはどんなに頑張っても1年後しか確認する事が出来ない。 だから僅か1mの距離に居る人を見ていたとしても、見ている人は常にその人の過去を見続ける事になってしまう。それが10cmの距離まで近づいたとしても10cm分だけの過去しか見る事が出来ない。 その本当にほんの僅かな時間の誤差を本能的に察知するのであろうか、人は手を繋ぐという行為をする。これならば少なくとも触れている肌の面積だけは時間の誤差が生じない。触れている肌の面積だけはリアルタイムな感覚を互いに伝え合う事が出来る。 そして、今まで生じた時間の誤差を埋めようと更に肌の触れ合う面積を広げようとする。体を重ねあい抱き合う。より多くの時間を共有しようと互いの距離をゼロにする。 それから人は更に時間の隙間を埋めようと、互いの距離をマイナスにしようと思いだす。それがセックス。互いの体の一部がマイナスの距離を保っている間、その部分はおそらく逆の時間の流れを作り出しているに違いない。少なくとも互いの時間の流れに全く誤差を生じる事は無いだろう。 だから僕は君との時間の誤差を埋めたく思って、いつまでも君の過去だけを見続けるのは切なくて、こうして君と肌を合わせているんだ。だから君との距離をマイナスにしようと思ってるんだ。 |