二人の結末



 良く晴れた土曜日の朝、僕は君を隣に乗せて車を走らせていた。多摩川を渡る246はいつも通り滑らかでほんの一瞬だけど青空へと車を走らせてる気分にさせてくれた。多摩川を渡りきってしまえば東京だ。君の横顔を左に見ながら右へウィンカーをあげて環八へと入り込む。

 第三京浜を過ぎたあたりで等々力の看板が目に入る。僕と君が始めて出会った街だ。今日はこの街を余りにも一瞬で通り過ぎてしまったけど、まるで二人が過ごしたあの夏のように瞬く間に過ぎてしまったけど、あの夏の二人の時間はある意味永遠だったのだと思う。

 車はまるで二人の別れを推し進めるように軽快に進んでいく。そして今の僕にはアクセルを緩める理由なんて無いのだから。そして君と僕とはまるっきり無口だ。きっと僕が思ってたように君も、あの時に口を開いてしまえば零れだしてくるのは感情という名を借りた切ない思いだけだったのだろう。零れだしてしまえば車は進まなくなってしまう。

 そんな事を考えているうちに田園調布を過ぎて蒲田だ。予想通り第一京浜の手前で足止めを食らう。無口な二人は目も合わさない。聞こえるのは遮断機の音。車の中に漂うのは僕の呼吸と君の呼吸と君の匂い。後数十分で聞こえなくなる音と、この街の空気と入れ替えられてしまう匂い。

 その後は車は止まることを知らない。大鳥居も穴守稲荷もまるで風が過ぎ去るように。君と僕のあの夏が過ぎ去って行くように。そして車は無理矢理右に向いて進みだす。そして天空橋。

 思わず涙が出そうになった。空に浮かぶジェット機はきっと誰かと誰かを結んで、まさしく天空を結ぶ橋となっているのだろう。だけどこれからあのジェット機は僕と君との橋になることは有り得ない。土曜の朝の青空には幾多の人々を結ぶ天空の橋が浮かんでいる。余りにも青い、この街にふさわしくない青い空の上に。

 二人で出した答えが羽田で結末を迎える。出発ターミナルで僕は非常点滅を出す。そして君は小さなバッグをリアシートから抱え出し車を降りる。

「じゃあ。」

「うん。」

 これが君と僕とが今日交わした会話の一部始終だ。そして二人の結末の瞬間。ドアを閉め振り返ることなくターミナルの自動ドアに吸い込まれる君。人込みの中に消えていく君を最後まで目で追いかけることなく来た道を戻ろうとする車。

 音は消えてしまった。僕は車の窓を全開にして、春の近い東京の乾いた空気で車の中を埋め尽くした。





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