治らない傷



 あの儀式が終わってから僕は何度かあの工場へ行っていた。

 君がこの街を去ってから1ヶ月は過ぎたと思うのだけど、今年の夏は残暑が厳しいのか一向にその暑さは収まるところを見せなかった。僕があの工場へ行くのは決まってその暑い最中、その暑さを少しでも和らげようと時折降る雨の日だった。

 昼頃から少しでも空が曇り始めると僕の心はざらつきだした。そのざらつきは放課後になっても収まる事は無く、また無駄な行為を繰り返しに行くのだなと思いつつも必ず、照りつける日差しの中あの工場へと向かって行った。

 真夏の暑さと照りつける太陽は僕の心のざらつきを大きくしていった。途中見慣れた制服が目に入るたび、ずぶ濡れになった君を思い出しそのざらつきに粘り気を加えた。そうしてあの工場に着く頃には僕の心の中には、ドロドロとしたざらつきの塊がいくつも転がっている状態になっていた。

 工場に着いてから僕はそのまま雨が降り出すまで入り口の前で待っていた。必ずあの時の君と同じようにずぶ濡れになってから工場に入る為だ。そして雨に当たり体が濡れてしまえば、火照った体が少しでも冷えてしまうのかと毎回思うのだけどそんな事は一向に無く、かえって体が濡れる事によってあの時の君の姿が鮮明になるだけだった。

 いつ来ても工場の中は蒸し暑かった。あの時と同じように工具類が並び、あの時と同じように作業台が並んでいた。そして僕は当たり前のように君と儀式をしたあの作業台の前へ行き、窓の外を眺めあの時の様子を最初から反芻していた。

 反芻していると僕の心の中のドロドロとしたざらつきが下半身へと動きだして来るのが分かる。いつもであればズボンのチャックを開けそれをどうにかしようと思うのだけど、その時はすでに遅くチャックを開けただけでは行為に及べない状態になっていた。

 仕方なく僕はズボンを脱ぐ。ズボンを脱いでから下着を下げようと下半身に目をやると、ざらつきをどうにかしようと大きくなっていた僕の下半身は、ブリーフの上からすでに出ている状態だった。そして下着の裏側にはなめくじが這ったような後がいくつも付いていた。

 ドロドロとしたざらつきはいつもそこまで来ていた。僕は左手で握るとちょうど掌の傷が当たるように刺激をした。一息、二息ほどでざらつきが大きな音を立てて体の中を転がりだしてくる。頭の中には君の濡れた制服と涼しげな顔。そしてあの時と今の僕と同じように掌から流れる血。僕は最後に大きく息を吐く。

 僕の心には鮮明に残っているあの時の儀式の痕は、作業台に輪郭だけを残して消えていた。その代わりに僕の残した痕が沢山ついている。無駄な行為と思いながらも僕はこのざらつきが収まるまではこの行為を続けるのかも知れない。

 そしてそれまではこの左手の傷が治る事は無いのだろう。





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