|
癖 今まで全く気が付かなかったけど、私にはある癖があった。物事をぼんやりと考えるときに左手の人差し指と中指を丁度鼻の下と上唇の間に置くという仕草だった。人差し指は上唇の辺り、中指は鼻の下を擦るように。 その夜はボンヤリと君の事や明日の事、これからの事。無数に白く光るヘッドライトやテールランプ、時折見え隠れするクリスマスの赤と緑の装飾、カーテンの奥に見える橙色の団欒の匂い、咥えたタバコの先から流れる銀色の煙、その煙を出すためにほんの少しだけ空けた窓から時折差し込むどこまでも乾いた冬の香り。そんな匂いや目に映る景色の中で考え事を始めていた。 考え事が始まって、無意識のうちに左手の人差し指と中指が口元に来ていた。今まで頭の中で味わっていた匂いや光の中に新しい匂いが混じってきた。鼻の下に来ていた指からする匂いだった。それはほんの1時間ほど前まで君の体の中で動いていたその指。その指に染み付いた君の体の中の匂い。 頭の中で味わっていたものが全て君に置換されていく。そして君の体の中の匂いが置換されていく君の景色に光と温度を投下していく。君の声、君の温度、君の表情。頭の中で全ての映像と温度と匂いが再現されていく。少しだけ傷や雑音が入りながら。まるで昔の8mmフィルムのように。 それから暫くはタバコを吸わずに君の匂いを楽しんでいた。 |