私は機械じゃ無いから



「だってあの人さー、『さよなら』って言わなかったんだよ。」

 そう真樹が言うのを、美里は半ば呆れた表情で見つめて居た。2杯目のコーヒーを口元に持っていったまま目だけは真樹を見つめながら。幼なじみの真樹の性格は知り尽くしている美里だったから、「どうしたものか」と心の中で思いながらも余り表情には出さず、呆れながらも反面羨ましく思える部分もあったから、言葉を遮る事もせずにただ頷いているだけだった。

「『またね』って言ったって事は、まだ可能性があるって事だよね?」

 真樹が続ける。

「『またね』って事は『またいつか会おうね』って事だから、完全にさよならって意味じゃないよね?」

 小一時間真樹の話を聞いていた美里は、どうひいき目に見ても別れを切り出されてる、もう二度と真樹と付き合っていた男は真樹と会うことは無いだろうと思っていた。浮気の現場を目撃された男、その後の男との話し合い、その時男はなんて言ったか、そして男の言った最後の言葉。

 真樹が決して強がって物事を話す人では無い事を美里は良く知っていた。だからこそ美里は真樹の余りにも素直に話す表情が、頑なに真樹の男の事を信じきっていると、ひしひしと感じていた。そしてその素直さに呆れ、同情し、軽く嫉妬すら感じていた。

「いつか、ってさ、いつまでの事言うの?」

 美里が言葉を返す。

「いつって、いつまでも。」
「いつまでも、まさか何年とか?」
「うん。」
「っていうか真樹さ、浮気までされてさ、他の男とか新しい恋とか考えないの?」
「だって・・・」

 美里は真樹とやり取りを始めて、自分の中の真樹への同情よりも羨ましさや嫉妬心が大きくなってくるのを感じていた。しかもその気持ちが悪い方向へ向かっているのを止められずに思わず言葉を吐いてしまった。

「じゃあハッキリ言うけどさ、あの男、もう真樹と、」
「わかってる」
 真樹がすぐさま美里の言葉を遮る。一瞬だけ目を合わせてその後すぐにうつむく真樹を美里はじっと見ていた。

「わかってるんだけどさ、美里ならわかるでしょ、私の事。」

 美里には分かりすぎるほど真樹の気持ちが分かっていた。分かっていたからこその言葉だったし、真樹への愛情の表現の一つの言葉だった。そして真樹のように男を好きになれない自分を少しだけ悲しく感じて、嫉妬心から出た言葉でもあった。

「わかってるけどさ。」

 美里はぽつりと言った。


 美里は真樹と駅前の喫茶店を出て、夜の7時に再び会う約束をして別れた。美里はクリスマス色に染められた騒々しい駅前を歩きながら、薄ぼんやりと「どうしたら真樹のようになれるかな」と考えていた。なる必要もないし、なれるはずも無いと思いながらも、真樹のようになりたいと思っている自分をいささかおかしく思いながら。

 そしてそんな真樹が友達でいる事を美里は嬉しく思っていた。





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